「次の方どうぞ。」
彼女は機械的にその台詞を言う。
視線は斜め下、僕の顔なんか見ていないのだ。
彼女にとって僕は一人の客。
毎日彼女のもとへたくさんの客がひっきりなしに来る。
そんな中で僕という個人が彼女に覚えられるわけがない。
自分で言うのも悔しいけれど、
僕は地味だ。
一回会っただけで覚えてくれる人はとても珍しい。
そんな僕のことを彼女は覚えられるわけがない。
彼女にとって僕は一人の客。
たくさんの客の中には、
面白い人
かっこいい人
奇抜な人
いろいろな人がいる。
彼らは決まって彼女に話しかける。
「・・・」
彼女が作り笑いでそれに答える光景を
僕はいつも遠くから見ているんだ。
「次の方どうぞ。」
何度も何度も聞いた台詞。
彼女がどんな表情でどんな口の動きで声を出すのかさえ
はっきりと目に焼き付いている。
贅沢な願いだけれど、わがままな願いだけれど、
僕にだけは、違う表情で、違う口の動きで、
違う言葉をかけてほしい。
そう思ったんだ。
でも、彼女にとって僕は一人の客。
たいして良くもない頭でいろいろ考えた。
目立つ格好をする?
手紙を渡す?
プレゼントを渡す?
甘い言葉をかけてみる?
どれも違うと思った。
客の中の一人から、面倒な客の中の一人になるだけだ。
何をしているときも上の空でそれだけを考えていた。
道で肩がぶつかった人に怒鳴られても。
大きな石につまづいて転んでも。
なかなかぐっすりと眠れずに1週間。
どうにも眠気に我慢ができずに枕に飛び込んだとき、
どうしようもない僕の頭に一つの案が閃いた。
--- 集めなきゃ。
一気に眠気が吹き飛び、僕は走り出す。
ヴェリナード領南にこもって、スライムピアス。
ポポリアきのこ山にこもって、竜のおまもり。
タンスの奥底にしまっていた、木彫りのロザリオ。
タンスの奥底にしまっていた、ねこひげ。
なけなしのメダルを使って、ダンディサングラス。
なけなしのメダルを使って、いやしのメガネ。
フラフラになりながら彼女のところに向かう。
いつものようにたくさんの客がいる。
順番を待つのが大変だが、
幸いにもこの時間が僕に落ち着きを与えてくれたようだ。
「次の方どうぞ。」
いつも通りの彼女だ。
僕は落ち着いて順番にアイテムを渡す。
旬を過ぎてしまったアイテムばかりで、
彼女が怪訝な顔をしたような気がした。
竜のおまもり 光ダメージ2%減
いやしのメガネ かいふく魔力+1
ねこひげ 不意をつく確率+1%
スライムピアス おしゃれ+1
木彫りのロザリオ しゅび+2
ダンディサングラス しゅび+1
徐々に悪くなる合成結果。
聡明な彼女はメッセージに気付いたようだ。
--- ありがとう、また来ます。
そう言って僕は店を後にした。
後日、倉庫が圧迫してきたので、
いらないアイテムをたくさん持って彼女の店に行った。
「次の方どうぞ。」
いつも通りの彼女ではなかった気がする。
台詞こそ同じだったが、少しだけ笑いを含んだ声だった。
いろいろなブローチやあまり使わないアクセサリーを
僕は彼女に次々と渡す。
思いがけず3つの理論値アクセサリーが完成した。
バステトのブローチ
かいけつマスク
ねこひげ
普通の人にはそこまで嬉しくない結果ではあるが、
僕にとっては特別な意味があった。
---ありがとう、また来ます。
僕がそう言ったとき、彼女は笑顔を見せていた。
そんな彼女の返事にうれしくなった僕も笑顔で駆け出した。
さらに後日。
僕は必死で手に入れた大地の竜玉を持ち
彼女の店に訪れた。気持ちは通じ合ったんだ。
怖いものは何もない。
「また来たの?懲りない人ね。」
・・・
「ほら、うまくできたよ。」
しゅび+2
僕はがっかりと肩を落とした。
この前のことから、
彼女は合成結果を意のままに操れることがわかっていた。
間違いなくHP+5をつけてくれると僕は勝手に思っていた。
僕は自分勝手に彼女を信じていただけなんだ。
暗い表情のまま、店を出るため後ろを向いたとき、
僕の耳に入ってきた言葉。
「また来てね。」
僕にだけしか聞こえないほどの小さな声だった。
彼女にとって僕は特別な一人の客に。
---
妄想だよ?
キモいとか言わないで頂戴。
写真使おうかと思ってましたが、
冒険日誌書いてた頃のテイストを意識したので、
あえて文字だけでいきました。
「私が君にだけ理論値つけないのは、
また君に会うためなんだからね」
と、いうことで理論値の人は、
リーネさんに、
「お前もう来んな」
というメッセージをもらってるということにして、
平静を装っております。
とはいえ、
竜玉にHP+5つかねーつかねー言ってたら、
一番グチった日につきました。
その後は本気で「しゅび、おしゃれ」です。
ガイア持ち寄り行きましょう。